ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
憂鬱だ。
玄関のドアを開ける前に一息ついたが、帰宅を知らせる言葉は発しなかった。
少し驚いた様子で顔を出した母からも、出迎えの声は聞こえない。
代わりに、
「そんなに自由がいいなら、早くうちを出たら?」
と、冷たく言い放つ。
外気温より倍以上高い家の中でも、家族の仲はめっきり冷えこんでいた。
心身ともに温めようと、からっぽの浴槽に飛びこみ、お湯をひねる。
「また変な入り方してるのね」
中学以来.珍しく干渉してきた母を無視して、心安らかなゆっくりとした時間を過ごした。
何の気なしに浴室のドアを開けると、
「は?」
足ふきマットの上に、ピカピカの革靴が置かれていた。
「は??」
さっき、母が置いたのか。
髪から水滴を垂らし、半裸の状態で問いつめる。
「何、これ?」
「あー……男は靴で一流か判断されるから、もうすぐ社会人なんだし、いい靴をあげなきゃって」
なんだ、急にこの母親ヅラ。久しぶりすぎて気色が悪い。
「卒業祝いと誕生日とクリスマスと全部ひっくるめてよ。その靴履いて、早く出ていきなさい」
「ぁ゛⁉」
一瞬でも心を許しかけた自分がバカだった。
結局、水嶋の血筋が人からどう見られるかの体裁を気にしているだけ。
玄関に置くのはまんまと受け入れているような気がして、靴を片手に自分の部屋へ向かった。