ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
「はぁ??」
新たな衝撃。机の上に、箱入りの高級な腕時計が置かれていた。
それは、父がこよなく愛するブランドの物。
ここまで来るともう、半分パニックだ。
反抗的な態度を取った手前、母に確かめることができず、
デスクチェアに座って睨めっこ。
答えなんて出るわけもなく、陽が暮れはじめる頃まで大貫のことを考えていた。
今だから言うが、あいつは僕の憧れだった。
どんな分野でも首席であることを望むこの家の教育方針上、絶対に超えられない壁、それが大貫幸恵。
僕なら一度でもトップの成績を取れたら、泣いて喜んだと思う。
だけど大貫は、いつも澄ました顔で堂々としていた。さもそれが当たり前であるかのように。
カッコよかった。
それに、彼女は僕にとって最初で最後の人。
今でも机の引き出しに取ってある1冊のノート。
その中に、授業中の僕の横顔を描いた絵がある。
大貫は絵の才能もあった。僕を描いてくれたのは、道端の似顔絵師以外で彼女だけ。
つまり、無償の愛だったと思う。
なのに……。
助けてあげることができなかった。
僕は臆病で、卑怯で、最低な男だ。
まっとうに生きようとすればするほど、あの時のことを思い出して、なぜ手を差し伸べなかったのかと苦しくなる。
だから、決めた。
まっとうには生きない。一生、卑怯な男でいると。
そうすれば、過去の自分を責めなくて済むから。