ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
すぐ引っ越し業者に電話をした。
家なんてどこでもいい。いくらでも見つかる。
一刻も早くここから出て行きたくて、届いたダンボールに部屋の物を詰めこんだ。
無我夢中で、約束の時間になっても。
「ヤっベ……」
急いで着替えを済ませ、部屋の前に置いてあった食事も蹴飛ばして玄関を出る。
家の前には、マフラーから白い煙を噴く彩矢香の車が止まっていた。
「ごめん! マジで!」
「何してたの? 寝てた?」
「ちがうちがう。引っ越すことになって、その準備」
「……そぅ、突然だね」
「うん……」
お互いに元気がなく、会話は途切れとぎれ。
「新しい靴?」
「え、まぁ……」
「あれ。そんな時計、持ってた?」
「あぁ……買ったんだよ」
「そう」
——……。
これから起こることが沈黙を吸い寄せた。
しかし、僕らは“鏡”という新しい地図を持っている。だから怯える必要はない。
「行こう!」
発進した車の中で、僕は内側が曇るほどテンションを上げた。
「というわけで、一緒に暮らそうか?」
「へ⁉ 急に何?」
「これから色々大変だろ? 家のこと。彩矢香の助けになりたいって本気で思ってる」
「…………」
彼女は迷っていた。それがやにわに断るためじゃないと信じて突き進む。
「このタイミングで家を出ることになったのは運命だと思うんだ。僕は、彩矢香の傍に居るべきなんだよ」
どうやら心に響いたようで、
「す……少し考えさせて」
と、微笑みながら言った。