ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
小中高一貫の名門私立に通っていたが、学力がそぐわなくなってしまう。良い意味で。
それに伴い、2度目のお受験に関する家族会議が開かれたが、終始父は興味を持っていなかった。
たまに家へ帰れば、長い時間聖矢を腕に抱いている。
『お前の好きなようにしなさい』
真剣なまなざしを向けたのは一瞬だけ。あとはずっと目尻を下げて、傍から見れば恥ずかしいぐらいの赤ちゃん言葉で弟をあやしていた。
このとき、なんとなく思いはじめる。会社を継ぐための私の努力は無意味なんじゃないか、と。
親戚全員が弟を「世継ぎ」と呼び、父はにっこり笑う。
それでも私は努力を惜しまなかった。先に生まれたのだから、その役割は自分にあると信じて。
結局、中学受験を選択し、一流高校への進学率が都内一の開桜を選ぶ。
惜しくも入試の順位は2番で、しかも圧倒的な差があったけど、先生たちは私のことを天才ともてはやした。
でも、一番褒めてほしかった父は、必死の思いで勉強した私にこう言った。
『そんなにムリをするな。会社のことは考えず、自由に生きていいんだぞ』
と。
優しい。本当に。
偏差値が人間の価値だと思っているほかの親たちと比べると、ダントツに子を尊重する両親かもしれない。
でも、私は悔しかった。
『お前に任せたら会社は安泰だな!』
そんな言葉が欲しいのに、必要とされていないようで……。