ひとりきりの夜に。
【嘘】
人をだますために言う、事実とは違う言葉。
埃をかぶった重たい辞書に書かれたこの意味が正しいのだとすれば、彼は嘘をついている。
しかも、私が事実だと思っていることの8割くらいは嘘だろう。
今日は会える?ごめん、仕事なんだ。
もう帰っちゃうの?家で猫が待ってる。
家行っていい?今、妹が泊まりに来てるんだ。
別に辞書で調べなくても、嘘だってことは分かっていたのかもしれない。
ただ、信じたくない。
嘘でもいいから、騙されてでも一緒にいたい。
そう思っていたのかもしれない。
派手な服装をして、髪をセットして、彼はキラキラとした夜の街に向かう。
あ、忘れ物。
そう言って、カバンから香水を出すとシュッと私に吹きかける。
俺の匂い忘れないように…。
そう優しく笑う彼を信じたかったんだ。