ひとりきりの夜に。
彼と同じ甘い香りに包まれて、私はもう一度ベッドに戻る。
ベッドからは彼の甘い香りがする。
私からも甘い香りがする。
まるで彼に包まれているような気になる。
忘れないように…。
香水なんて吹きかけられなくたって、忘れるわけない。
だってこの部屋は、こんなにも彼の香り、彼の残像でいっぱいなんだもの。
枕元に置かれたネックレスを見る。
彼が本当に忘れたのか、それとも意図的に置いていったのか。
私には分からない。
そう思うと、彼のことは分からないことだらけだ。
どんな食べ物が好きなのか。
どんな音楽が好きなのか。
どんな女の子が好きなのか。
何度身体を重ねても、何度好きだと言われても、謎の虚無感に襲われていた原因が少しずつ分かる。
知らなくていい。
知りたくない。
でも知りたい。
複雑に絡まった感情。