こけしの恋歌~コイウタ~
それは一瞬のこと。
私の目は大きく見開いている。
至近距離に課長の顔がある。

私の唇が課長の唇と重なっている…。

そう気づいた時には唇は離れていた。

これは現実なのか、夢なのか。
…キスされた…よね?

課長はぼーっとしている私に、「捕まえた」と小声で呟き、二度目のキスをした。

…キス…、キス!?
これは夢じゃない!!
目の前には成瀬課長がいる。
私の好きな人が私にキスしているという、紛れもない現実。

ど、どうして!?

な、なんでこうなってるの!?

からかって遊んでる…ワケじゃないよね!?

頭の中は大パニック状態。
頭から湯気が出てるんじゃないかってくらい、全身が熱い。
課長の手にも私の熱が伝わってるに違いない。

それなのに課長はなかなか手も唇も離してくれない。
私は目を瞑ることすら出来なくて、何度も瞬きをしている。
息が出来なくて苦しい。

「んんっ」

唇の隙間から精一杯の抗議の声を出すと、ようやく課長の唇が離れていった。

課長の妖艶な眼差しに見惚れてしまった。
もうなにも考えられなくなってしまった。

甘い空気に包まれているような感覚。

唇が離れた後も、手は頬を包んだまま。
多分私の顔は茹でだこ状態。
それでもずっとこのままでいたいと思ってしまった。

課長がなにか言おうと口を開けたと同時のタイミングで、資料室の内線電話が鳴った。







< 33 / 64 >

この作品をシェア

pagetop