こけしの恋歌~コイウタ~
資料室にひとり残された私は、頬、唇、頭を触って、夢じゃなく、現実なんだと確認する。

課長の温かさが私の身体のそこかしこに残されている。

「キスしちゃった…」

言葉に出すと、更に恥ずかしさが増してくる。

とにかく仕事しようと、頭の中をリセットしようと試みる。
幸いにも、ひとりになったことで集中力は増した。
不思議と手間取らず、サクサクと資料を探し回る。
定時までには全ての資料を探し終えた。

営業部に資料を渡し、総務部に戻った。
課長のデスクを見ると、まだ戻ってきてはいないようだった。

途端に、資料室での出来事が鮮明に甦る。
私はデスクに突っ伏してしまった。

課長はどうしてキスしたんだろう。
容姿端麗、頭脳明晰、エリート街道まっしぐらの課長が、どうしてこけしの私に?

からかって遊んでる…?
だからといって、いくらなんでもキスはしないよね。

そういえば、可愛いって言った。
こけしの私のどこが?

ちゃんと話をしようって…。
一体どんな話?

さっぱりわからない。

それでも課長とキスした事実は、紛れもなく私の身体と心に残っている。
身体全体が熱いし、なにもかも課長で埋め尽くされている。
心臓は爆発しそうなくらい、高鳴っている。


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