こけしの恋歌~コイウタ~
息を切らせながら、音楽事務所のドアを開けた。

「お疲れ様です!」

勢いよく中に入るものの、シーンと静まり返っている。
いつも明るく迎え入れてくれる社長の姿がない。
ニコニコと駆け寄ってきてくれる高畑さんの姿もない。

あれ?
誰もいないの?
ドアは開いてるし、電気も点いてるから、誰かいると思うんだけど。

そんなことを考えながら音楽事務所の奥へと歩いていく。
一番奥の社長室のほうから微かに声が聞こえてくる。

急に呼び出されたことに対する不安から、足取りが重く、ゆっくり静かに近寄っていく。

社長室のドアの前で立ち止まったその時、中から高畑さんの大きな声が聞こえて、身体がビクッと震えた。

「どうしても駄目なんですか!?もう為す術がないってことですか!?」

いつもニコニコと穏やかな高畑さんが、こんなに声を荒らげていることは今までに一度もなかった。

「もう少し待ってくれるように、出版社の社長直々にお願いしたんだけどね。向こうも仕事だからってことでね。こっちの事情は何度も説明したんだけど…」

社長の声は弱々しく、覇気がない。

呼び出された時に感じた嫌な予感が全身を駆け巡る。
途端に一気に血の気が引いていく。

よくないことが起こっている。
私が呼び出されたということは、サクラに関すること。
尋常じゃない社長や高畑さんの様子に、考えたくはないけれど、その答えはひとつしか思いつかない。

サクラの正体がバレた…。


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