こけしの恋歌～コイウタ～
一度、大きく深呼吸してから社長室のドアをノックした。
手も足もさっきから震えている。
それでもグッと力を入れて、なんとか踏ん張る。

「失礼します」

覚悟を決めて社長室に入ると、社長と高畑さんがギョッと驚いた顔で私を見ている。
気まずい雰囲気が漂う中、沈黙を破るように私は話を切り出した。

「あの、私がサクラってことがバレたんですか？」

応接テーブルの上に置かれた週刊誌の記事の原稿が目に留まった。
どうやら写真も何枚か置いてある。
私は迷わず記事と写真を手に取った。

心の中は不安でいっぱいにもかかわらず、社長と高畑さんの前ではなんとか平常心を装う。
これ以上ふたりに迷惑と心配をかけないように。

記事にはサクラは２４歳で普段は一般人として会社で働いていることが書かれていた。

写真にはモザイクがかけられていたけれど、普段のこけし姿の私と、つば広の帽子を被ってサングラスをかけた私が写っていた。

もし会社の人がその週刊誌を読めば一目瞭然、サクラが桜庭円香だとはっきりわかる記事と写真だった。




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