こけしの恋歌～コイウタ～
社長は重い口を開いた。

「来週の金曜日に発売されるらしい」

「来週の金曜日…。そうですか…」

私は力なく答え、俯いた。
もう一刻の猶予もなかった。
為す術がない…高畑さんの言葉が頭に響いた。

しかも週刊誌が発売される前日、つまり来週の木曜日は会社の謝恩会が開かれることになっている。

総務部は準備で大忙しで、成瀬課長とは否が応にも顔を合わせないといけない。
最後の最後まで、成瀬課長の姿を目で追ってしまうに違いない。
そして、その謝恩会が最後の仕事になる…。

本音を言えば、もっと課長と一緒に仕事がしたかった。
上司と部下という立場でも傍にいたかった。
課長のことを想いながら大好きな歌を歌い続けたかった。
願っても叶うことはないけれど…。

「円香ちゃん、派遣の仕事どうする？」

高畑さんは躊躇いながら私に尋ねた。

「来週の木曜日、会社の謝恩会があるんです。それを最後に辞めます。会社に迷惑かけられません」

記事にはどこの会社とか、私の本名とかは書かれていなかった。
そこは配慮してくれたらしい。
それでも今の時代、調べればすぐにわかってしまう。








< 47 / 64 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop