こけしの恋歌~コイウタ~
「他は大丈夫か?」

『課長、こけしちゃんですけど…』

市川の声色が真面目になった。

『この前、泣き腫らした酷い顔で仕事してましたよ。こけしちゃんって守ってあげたくなるような感じですよね~。密かに人気高いんですよ。知ってました?あ、でも僕は興味ないんで、ご心配なく。それと明日は午後から出社でいいって部長からの伝言です。それでは失礼します』

市川は矢継ぎ早に言うだけ言って電話を切った。

しばらくスマホを耳に当てたまま動けなかった。

正直、総務部の仕事のことはそんなに心配していない。
なにかあれば、部長や市川がフォローに入るはずだ。

俺が一番気にかかること、それはこけしちゃんだ。

泣き腫らした酷い顔?
一体何があった?

こけしちゃんは何かをひとりで抱え込んでいる。
そんな気がいつもしていた。
もし俺に何か出来ることがあるなら、何でもしてあげたいと思った。
こけしちゃんを支えてあげたい、守ってあげたい。

部下を心配する気持ち…。
いや、そうじゃない。
だから、気持ちを抑えられず、資料室でキスをした。
やっぱりあの場できちんと話をするべきだった。



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