こけしの恋歌~コイウタ~
こうなったら、もうヤケクソだっ!

どうせ今日で仕事は辞める。

明日には記事が出て、サクラの素性はバレる。

もう怖いものなんてない。

そう覚悟を決めて、渡されたマイクをギュッと握りしめた。

営業部の人になにを歌うか尋ねられて、「サクラの曲を」とリクエストした。

「桜庭さん、一言お願いします」

営業部の人に合図され、マイクのスイッチを入れた。

一瞬目を閉じて、心を落ち着かせる。

「総務部の桜庭円香です。一言…とても一言では言い表せないくらいに、私はみなさんに感謝しています。特に総務部のみなさん、ありがとうございます。心を込めて歌います」

まとまりのない挨拶にみんなキョトンとしていたけど、温かい拍手をくれた。

もう一度チラッと課長を見ると、ニコッと笑顔を向けられた。

今は絶対泣かない。

今日一日が終わるまでは笑っていよう。

込み上げてくる気持ちを必死に押さえて、私は歌い始めた。
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