マンゴーゼリー
車に乗り込んで、時計を確認すると、9時の少し前。


近所のスーパーの閉店時間はたしか9時だったはずだ。


今から言っても間に合わないな・・・・



そんなことを思いながら、携帯を取り出して、履歴から娘の番号を探して電話をかける。




『もしもし、お父さん?』


「もしもし、真尋。今、大丈夫か?」



『うん。浩太は寝てるし、大丈夫だよ。どうしたの?』



「なぁ、お母さんの好きなゼリーは桃ゼリーだよな?」



妻は、昔から桃ゼリーが好きで、体調を崩したときは、必ず桃ゼリーを食べたいと言っていた。

ただ、最後に体調を崩したのがずいぶんと前で、好みが変わっていないか確信が持てない。

娘の同意が欲しった。



『え?お母さんが最近好きなのは、うちの近くのコンビニのマンゴーゼリーだよ。』



・・・マンゴーゼリー?



予想外の返答に一瞬、思考が停止した。


『もしもし、お父さん?』


「あぁ、悪い。お母さんはマンゴーゼリーが好きなのか?」



マンゴーゼリー・・・甘いものに疎い自分には聞きなれない単語だ。


『うん。今、はまってるって言ってた。』


「そうか。近くのコンビニに行けばあるんだな。」


『そうだけど、どうして?』


娘は、わざわざ自分が妻のためにゼリーを買うことを疑問に思ったらしい。


「ちょっとな。・・・早く帰るって約束したのに、遅くなったからな。」


『そっか。じゃあ、やっぱりコンビニのマンゴーゼリーがいいかな。今からだとあんまりお店開いてないしね。』


体調を崩したと言えば、昨日まで一緒にいた娘は、自分が無理をさせたのではないかと気にするだろう。
とっさに考え付いた言い訳は微妙だったが、娘は納得したようだった。


< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop