夢色メイプルシュガー
「わかる?」
宗谷くんが耳元で囁くように言った。
ドクン、ドクン。
たしかに激しい心音が、この身を伝って聞こえてくる。
でも今の私には、冷静に答えられるようなそんな余裕はない。
「う、うん」
精一杯声を出した。
「だろ?」
何この状況。
心臓が壊れそ──。
──ガチャ。
「すまん、忘れ物を……」
──パタン。
開いた扉が間もなく閉まった。
そして、すぐにまた開いた。
と同時に、私たちはばっと離れた。
「すまないね、おじゃまして……」
なんとも居心地の悪そうな顔で入ってきた勇さんが、チラリとだけこっちを見る。
それから静かに、奥まで進んでいって。
「失礼」
ノートを手に取るなり、すぐさま外へ出ていった。