夢色メイプルシュガー


「言いたいこと、ちゃんとあったんだけどな……。ごめん。たった今、なくなった」

「へ?」


ポカンとする私に、先輩が続ける。


「悔しいけど……負けちゃったか、俺」


負け?


「あ、あの──」

「もっと早くに言っとけばよかった」

「……っ」


どこか淋しげな顔だった。


先輩がなんのことを言っているのかはわからない。

けれど──。

思わず息を呑むと、すぐさま「あ」と小さな声が響いた。


「一つ、言いたいことが見つかった」


先輩は優しい目だけはそのままに、表情を引き締めて言った。

そして。


「もっと、素直になれよ」

「す、なお……?」


思わぬ言葉に聞き返してしまう。


「ああ。涼岡って、意外と素直じゃないからなー。ずっと本当の想いを隠したままだと、いつか痛い目見るぞ?」


ドクン、心臓が撃たれたみたいだった。

私が口を挟む間もなく、先輩はすぐにまた言葉を発した。


「彼のこと、好きなんだろ?」

< 163 / 228 >

この作品をシェア

pagetop