夢色メイプルシュガー
──ドクンッ。
「なんで……」
「なんとなく」
「……」
くすり、笑ったその目を私は直視することが出来ない。
「想いを伝えられなかった時って、伝えて失敗した時とは比べ物にならないほど、悔しいと思うんだよね」
真っ直ぐで温かいはずの先輩の声。
それが今日は、心做しかいつもと違ったふうに聞こえる。
「……だから俺は、涼岡にだけはそんな思いしてほしくないんだ」
「あの──」
「どうせ後悔するなら、気持ちよく後悔したいじゃん」
……先輩。
なにも言えなかった。
言葉が出なかった。
私は吸い込まれるように、今度は目の前の瞳をブレなく見つめる。
朧気に影を落とす、その瞳を。
「あれ。何で涼岡、そんな顔してんの?」
「だって、先輩が……」
すごく悲しそうな顔、してるんだもん。
目に映るその表情にキュッと胸が締めつけられて、涙が、溢れそうだった。
「変な涼岡」
くすくすと笑った先輩は、私の肩をぽんと優しく叩いた。
それから、「じゃあ、応援してるよ」と緩やかに口角を上げ、ゆっくりと廊下の奥へ歩いていった。