夢色メイプルシュガー
「あの……。先輩、なんだって?」
教室に戻ってすぐ、宗谷くんが少し躊躇いがちに訊ねてきた。
けれど私は、こう返す。
「内緒」
「え、何だよそれ」
しょうがないじゃない、内緒は内緒なんだもん。
「ただね、素敵なこと、教えてもらったの」
「素敵なこと?」
「うん」
“素直じゃない”
乾先輩の言葉は、まさにそうだと思った。
私は、いつも本当の想いを、心の奥に隠したがっていたから。
小学校の参観日。
お仕事でお母さんが来れなかった時、私はいつも大丈夫だよって笑顔で言ってた。
寂しくても、悲しくても、お母さんを心配させないようにって、強がって我慢ばかり。
ほかの子たちみたいに上手く甘えることも、いつしかできなくなってた。
そして、恋愛に関してはひどいくらいに当てはまる。
胸のドキドキも、きゅって締め付けられるような想いも、たしかにそこにあるはずなのに。
全部、無意識のうちになかったことにしていたんだ。
だから自分から告白なんて、もちろんしたことないし。
恋バナも、聞く分には楽しいけど、訊かれるとなんとなく困ってしまう。
恋心を、恋心として認められないせいで。
何をそんなに恐れてたかなんて、正確にはわからないけど。
でもたぶんそれは、
“違う”って思えば楽だから。
そうすれば、知らない自分に出会わなくて済むんだもん。
悩まなくて、いいんだもん。
恥ずかしい思なんて、なんにもせずにいられるんだもん。
だけど。
それじゃ、せっかく芽生えた想いが、もったいないよね。
だから今、素直になって認めよう。
……私は、宗谷くんが好きだ。
「とっても、素敵なこと」
言葉を噛み締めるように、そっと。
目を細めながら紡いだ。
すると、顔を歪めた宗谷くん。
「意味わかんねぇ」
なんて、不服そうに声を落とす。
うーんと首を捻る彼を目に、私はくすりと笑って言った。
「わからなくていいの!」