夢色メイプルシュガー
「おはな、し?」
何でだろう。
声が震える。
心臓の音が瞬時に鈍くなって、体温が上昇していく。
お母さんが何を話すかなんてまだ微塵もわかってないはずなのに……嫌な予感がしてたまらなかった。
「水曜日の放課後、何してるの?」
──ドクン!
「なっ、何って」
「ここ最近、水曜日はきまって帰りが遅いからおかしいとは思ってたんだけど……あなたのこと、最近よくケーキ屋さんで見かけるって話、ご近所の奥さんから聞いたのよ」
「……っ」
その言葉が耳に届いた時、嫌な予感が確証にかわった。
どうしよう。
どうしようどうしよう!
心の中で渦巻く何かに、身体がどんどん侵蝕されてゆく。
──なんて誤魔化せば?
「ええと、それは……」
考えて、私。
さあ、早く!
「私……」
“人違いじゃないかな?”
“最近ケーキを食べたい気分で”
……いや、ダメ。
こんなのダメだよ。
うそはもうつけない。
これ以上は……。
私はぎゅっと唇を結んでから、重たい口をそろりと開いた。