夢色メイプルシュガー


「……」

「そんなの、するわけないじゃない。芽衣の決めた夢なら、私はなんだって応援する」


言葉が出なかった。

だって、そんな……。


「……お母、さん」


私……間違ってた。


滲む視界の中、お母さんが、真っ直ぐな目をして私を見る。


「私が今まで厳しくしてたのは、弁護士になりたいって言ってたあなたに、その厳しさを教えるため。決して、“弁護士になれ”と強要していたわけじゃないの」


そう、だったんだ。


喉の奥が熱くなった。

何も言えないまま、グッと唇を噛み締める。


すると。


「……けれど。結果としては、同じようなもの、ね」

「そんなこと、ない……っ」


続いて聞こえてきた涙声に、私は反射的に声帯を震わせた。


傷つくことを恐れて、傷つけることを恐れて。

安全な道を辿っていたのは、私。


なのに。

お母さんはまた辛そうな顔をして、こんなことを言うの。


「ごめんね芽衣。お母さん、今まであなたの本当の気持ちに、気づいてあげられなくて」

「……っ」


お母さん……。

何で、謝るの……。


「でも、嬉しいわ」

「へ?」

「こんなに必死な芽衣の顔、見たの久しぶりだったから」


そうか……。


「もちろん、今の真面目なあなたも大好きだけど。今みたいに、感情をさらけ出して本音ぶつけてくれる方がお母さん嬉しいなあ」


感情をさらけ出す。

むき出しの自分を見せる。

そんなの、私らしくないなんて思ってたけど。


好きなものとか、嫌いなものとか、喜怒哀楽。

思ったままに、感じたままに。

誰だって、子どもの頃は簡単にできてたもんね。



「だって私たち、親子でしょう?」

「……うん!」


親子。

なんて心地のいい響きだろう。


「お母さん、ありが──」

「ところで芽衣、好きな人できたでしょ」

「え!?」


お母さん!?

急になにを言って……!


びっくりしてしまった。

ありがとうって、ちゃんと伝えようとしてたところだったのに。


ピクリ身体を反応させると、お母さんが妖艶に口角を上げた。


「なーんてね。……ね、このケーキ食べてもいいかしら」

「……も、もちろん」

「じゃあ、一緒に食べましょう?」


切り替わるように向けられた柔らかな笑顔に、ワンテンポ遅れて頷く。

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