夢色メイプルシュガー


乾先輩──乾慎一郎(いぬい しんいちろう)先輩は、私が中学の時によくお世話になった、一つ上の先輩だ。


頭が良くて、優しくて、かっこいい。

そんな彼は、いつも学校中の女子から羨望の眼差しが寄せられていた。

……んだけど。


先輩ったら、なんでこんな時に!


「あぁ、えっと……!」


どうしよう、なんて言えばいいんだろう。

戸惑っていると、先に乾先輩が口を開いた。


「あれ。もしかして俺、おじゃまだった?」


お、おじゃま?


見ると、その目は宗谷くんの方へ向いている。


はっ!

まさか先輩、勘違いして!?


「全っ然! そんなんじゃないですから!」


とっさに声にする。

早く、なんとか誤解を解かないと!


「この人はただのクラスメイトで、そのっ」


すると先輩は黒髪に手をあて、フッと爽やかに笑った。


「それならいいんだけど」


……はあ、なんとか助かった?


「でも、焦ったなぁ」

「え?」

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