夢色メイプルシュガー
ゴミを捨て終え、掃除用具入れに手をかけた私の耳に、そんな声が届いた。
……橘くん?
窓からこちらへひょっこり顔を覗かせている彼。
どうやら、中々来ない宗谷くんを迎えに来たみたい。
でも、今日は……?
「あ、敦生。わるいけど、用事あっから先帰ってくんねーか」
頭にハテナを浮かべた時、ゆっくりと窓に近づきながら宗谷くんが呟いた。
「用事……。あー、なんかそう言えばそんなこと言ってたような……」
橘くんは、あっと何か思い出したような顔をして、うんうんと顎に手を当てる。
「すまねーな。大事な用なんだ」
「ふーん。てか渚。そんな大事な用って、一体何なの?」
「んー、それは……」
──ドクン。
それ、は?
なんて答えるんだろう。
その続きを、私は静かにみまもる。
「ぜってー秘密」
「またそれかよ……」
ふう、よかった……。
橘くんがつまらなそうに口をとがらせる中、私は聞こえたその言葉にホッと胸を撫で下ろした。
「……まてよ?」
ん?
瞬時に切り替わったその表情へ、自ずと目線が向かう。
「もーしーやー?」
ニヤリ。
さっきまでの不満そうな表情とは一変、何かを閃いたのか、橘くんは何やら愉しそうな笑みを浮かべている。