幸せの静寂
阿多高校との練習試合の日。
今回の練習試合では、阿多高校で軽くウォーミングアップをとってからすることとなっている。
阿多高校までは、バスで三十分ほどなのだが、私はもう疲れてきている。なぜなら、バスの中が(行ったことはないが)赤道付近の国にいるかと思うぐらい暑いからだ。
その理由はひとつ。「今回こそ、阿多高校の連中を潰してやるぞー❗」
と、皆が燃え上がっているからだ。もう、キャプテンも諦めている。
そして、ようやく阿多高校に着いたのはいいが、「皆さん、着きましたよ~」と、田中先生が言うと皆が一斉にバスを降りたのだ。しかし、そんな順調に降りられるわけもなく、入り口付近には人がうごめきあっている。
「これが、県のベスト4か……」と、苦笑いしながら思わず呟いてしまった。
ピピーッ
試合終了のホイッスルが鳴った。
3セットマッチの試合で、2ー1
菱川高校が負けた。
「いい試合でした。」
「ありがとうございました。」と、コーチ同士で挨拶をしているが目が笑っていない。
「次は負けません!」
「次も負けません!」
と、キャプテン同士で挨拶をしているが、こちらも目が笑っていない。
「なかなか、恐いですね…」
私がそう言うと、来栖先輩がそうだね、と苦笑しながら言った。
菱川高校に帰ってきた私たちはミーティングをし、夜の7時過ぎまで、練習をした。
「お疲れしたー」と、眠そうに挨拶をする生徒がほとんどだったため、少し笑ってしまった。
この日、私は自ら鍵の施錠を申し出た。少し、やりたいことがあったからだ。しかし、こんなことをしても体の傷が治るわけじゃない。まして、心の傷も治るわけじゃない。それでも、今日の練習試合を見て思ったのだ。
あぁ、またバレーボールをやりたいなーーー、と。
バレーボールは繋ぐ競技だ。ボールを落とさないよう、皆で繋いで、繋いで、得点にする。そのために、人間関係は必ず必要なもの。そんなことは分かっていたはずだった。でも、あの頃の私は行動を起こすことに勇気がなかったのだ。
そんなことを考えながら、準備運動をするが、今の私に激しい運動はできない。体育の授業もちょくちょく休ませてもらっている。そのため、今の私にできることはサーブを2、3本打つことぐらいだろう。
ボールを手に持つ。コートに立つのはいつぶりだろうか。もう、あの試合以来打っていない。いや、打てないのだ。でもーーーー。
意識を集中させ、狙いを定め、ボールを上げる。
そして__蝶のように飛び、蜂のようにさす。
バァンッという床にボールが叩きつけられる音が静寂な体育館に響く。私はおもわず地団駄を踏んでしまった。ボールの高さも全然足りていない。狙ったところに打てていない。勢いも足りていない。これらは、一年以上バレーボールをしていないからというのもあるのだろうが、これは、違う。この感覚は、動きが鈍っているという感覚じゃない。
私は、これ以上やると自分が惨めになるだけだから、もう引き上げようとした。しかし、私の足は止まってしまった。入り口に巫君がいたからだ。
そして、二度目の静寂が訪れた。
今回の練習試合では、阿多高校で軽くウォーミングアップをとってからすることとなっている。
阿多高校までは、バスで三十分ほどなのだが、私はもう疲れてきている。なぜなら、バスの中が(行ったことはないが)赤道付近の国にいるかと思うぐらい暑いからだ。
その理由はひとつ。「今回こそ、阿多高校の連中を潰してやるぞー❗」
と、皆が燃え上がっているからだ。もう、キャプテンも諦めている。
そして、ようやく阿多高校に着いたのはいいが、「皆さん、着きましたよ~」と、田中先生が言うと皆が一斉にバスを降りたのだ。しかし、そんな順調に降りられるわけもなく、入り口付近には人がうごめきあっている。
「これが、県のベスト4か……」と、苦笑いしながら思わず呟いてしまった。
ピピーッ
試合終了のホイッスルが鳴った。
3セットマッチの試合で、2ー1
菱川高校が負けた。
「いい試合でした。」
「ありがとうございました。」と、コーチ同士で挨拶をしているが目が笑っていない。
「次は負けません!」
「次も負けません!」
と、キャプテン同士で挨拶をしているが、こちらも目が笑っていない。
「なかなか、恐いですね…」
私がそう言うと、来栖先輩がそうだね、と苦笑しながら言った。
菱川高校に帰ってきた私たちはミーティングをし、夜の7時過ぎまで、練習をした。
「お疲れしたー」と、眠そうに挨拶をする生徒がほとんどだったため、少し笑ってしまった。
この日、私は自ら鍵の施錠を申し出た。少し、やりたいことがあったからだ。しかし、こんなことをしても体の傷が治るわけじゃない。まして、心の傷も治るわけじゃない。それでも、今日の練習試合を見て思ったのだ。
あぁ、またバレーボールをやりたいなーーー、と。
バレーボールは繋ぐ競技だ。ボールを落とさないよう、皆で繋いで、繋いで、得点にする。そのために、人間関係は必ず必要なもの。そんなことは分かっていたはずだった。でも、あの頃の私は行動を起こすことに勇気がなかったのだ。
そんなことを考えながら、準備運動をするが、今の私に激しい運動はできない。体育の授業もちょくちょく休ませてもらっている。そのため、今の私にできることはサーブを2、3本打つことぐらいだろう。
ボールを手に持つ。コートに立つのはいつぶりだろうか。もう、あの試合以来打っていない。いや、打てないのだ。でもーーーー。
意識を集中させ、狙いを定め、ボールを上げる。
そして__蝶のように飛び、蜂のようにさす。
バァンッという床にボールが叩きつけられる音が静寂な体育館に響く。私はおもわず地団駄を踏んでしまった。ボールの高さも全然足りていない。狙ったところに打てていない。勢いも足りていない。これらは、一年以上バレーボールをしていないからというのもあるのだろうが、これは、違う。この感覚は、動きが鈍っているという感覚じゃない。
私は、これ以上やると自分が惨めになるだけだから、もう引き上げようとした。しかし、私の足は止まってしまった。入り口に巫君がいたからだ。
そして、二度目の静寂が訪れた。