幸せの静寂

　巫は友人たちと帰路についていたが、彼はバレーボールで使うサポーターを忘れていることに気付き、学校へと戻っていた。
「やっべー。もう南雲さん、鍵閉めちゃってるかな。」と、考えながら全力疾走しているうちに、学校へと着いた。静まりきった校舎を突き抜け、第二体育館へ到着すると、そこにはまだ明かりがついていた。
(ラッキー。まだ開いてんじゃん。)そう思いながら第二体育館へと入ろうとすると、そこには何故かサーブを打とうとしている、南雲冬香の姿があった。
　キュキュッと助走をつけて飛び、打つ。それはまさしく、蝶のように飛び、蜂のようにさす。
「綺麗だ……」
思わずそう呟いてしまうほどの綺麗なフォームだった。でも南雲さんは悔しそうな、そしてどこか、悲しそうな表情をしていた。僕は気になって声をかけようとしたが、その言葉は出なかった。南雲さんは目があった瞬間、今にも泣きそうな子供の顔をしていたから。
　そして、静寂が訪れた。
その静寂を破るように話してきたのは南雲さんだ。
「ど、どうしたの？」
「あ、いや、ちょっと忘れ物を…」
僕はなんとなくさっきのことは触れてはいけない気がして、そのままサポーターを探し、家へと帰った。
だが、南雲さんは何か言いたそうな顔をしていた。