再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
1.再会した幼なじみがまさかの黒王子だった件。

01

 
***


カーテンの隙間から漏れる朝日を浴び、幸せな気持ちを感じながら私は夢から覚めた。

夢心地の中、すっかり見慣れたマンションの部屋が目に映る。

社会人になってから住み始めたこの部屋は狭すぎることも広すぎることもなく、心地いい広さだ。

私は手を伸ばして、部屋に鳴り響くアラーム音を止めた。


「……夢、かぁ……」


あまりにも幸せな気持ちを残していった夢に、私は想いを馳せる。

そしてベッドの上に寝転んだまま体の力を抜き、再び目を閉じた。




――初恋の人の夢を見た。

私が幼い頃に住んでいた街は、穏やかな空気が流れる住宅街だった。

ある日の夕暮れ。茜色の空が街を優しく包み込む。

その色は、小さなケンカがありながらも友達と楽しく過ごした1日の終わりを予感させ、なんだか寂しい気持ちになる。

でも隣を見上げるとそこには私の大好きな優しい笑顔があり、寂しさはどこかに吹き飛んでいった。

私の小さな手をすっぽりと包み込む手の持ち主は、私の家の斜め向かいに住んでいる3歳年上の翼(つばさ)くんだ。

彼は私のことをかわいがってくれる優しい男の子で、私は物心つく頃から彼のことを慕っていた。

彼は、私の初恋の人だった。

翼くんと手を繋いで歩くのが大好きだった私はホクホクした気持ちで歩いていたけれど、ついに私の家の前に到着してしまう。

彼ともお別れだ。

別れるのが嫌で翼くんの手を強く握ると、彼は「俺が守るから……もう、ひとりで泣くなよ」と口にした。

……ずっと翼くんと一緒にいられたらいいのに。

小さな別れを重ねるたびに、私は心の中でいつもそう願っていた。

でも、私が中学2年に上がる春休み、私のその小さな願いは崩れてしまった。

私はその街から遠い街へと引っ越すことになってしまったのだ。

別れ際、翼くんは「きっとまた会えるよ」と笑顔で言ってくれたけれど、彼と離れることが寂しくて辛くて、私はたくさん泣いた。

恋を叶えるために行動できるほど私は心も身体も成長していなくて、私の淡い初恋はこの引っ越しをきっかけに終わってしまった。




……あれからもう10年以上経つ。

ずっと忘れていたのに今になって笑顔の優しい初恋の人の夢を見るとは思ってもみなくて、懐かしさに胸がきゅんとした。


「翼くん、ほんとカッコいい人だったよなぁ。今どうしてるのかな……っと、いけない! 準備しなきゃ!」


つい感嘆の息を漏らしそうになった私は、ハッと現実に意識を戻す。

ベッドの上から転がり落ちるようにして床に着地すると、いつも以上に気合いを入れて仕事に行く準備を始めた。
 
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