再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「そんな無理したような笑顔、紗菜美らしくないよ。瀬戸さんと何かあったんじゃない?」
「……やだな、別に何もないって。仕事もやっと覚えたし、意外と頼ってもらえてるっぽいし、順調だよ」
「じゃあ、プライベートは?」
畳みかけるようにして核心に近づいてくる瑠花に、私は口を閉ざしてしまう。
「ねぇ、紗菜美。もしかして、瀬戸さんのこと」
「何もないってば!」
思わず叫んでしまい、すぐに我に返る。
「ごめん、瑠花……」
「ううん。私こそ、藤岡さんとのこと言ったりしてごめん。ねぇ、でも、紗菜美はそれでいいの?」
心配そうに瑠花が問いかけてくるけれど、私は力ない笑顔を作ることしかできない。
「いいも悪いも、本当に何もないから。……何もないの。これが普通なんだよ」
幼なじみというだけの関係の私が、航くんと藤岡さんの関係の邪魔をするなんておかしい。
だからたとえ瑠花であっても、あの日のキスのことも私の中でくすぶっている気持ちがあることも、絶対に知られてはいけないんだ。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」
「紗菜美」
私は心配そうな瑠花の呼びかけに「ごめんね」ともう一度謝り、店内の奥にあるお手洗いに向かった。
……最近よく思うことがある。
ただの幼なじみとして接していた以前のように戻れたらいいのに、と。
そうすればきっと楽しいのに、と。
……でももう、以前と同じ気持ちに戻れないことは私が一番よくわかっているんだ。