再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「嘘言え。紗菜が嘘をついてるときはすぐわかるんだよ」
「そんなの、わかるわけないじゃない。適当に言ってるだけでしょ?」
根拠のない航くんの言葉に顔を上げたとき、彼の指が私の唇に触れた。
私は身体を震わせてしまう。
「適当じゃない。何年見てきてると思ってるんだよ。紗菜が意地を張って嘘をつくときに唇を噛む癖があることくらい知ってる。わかりやすいのはいいけど、その癖やめろよ。傷になる」
「は、離して……」
「紗菜が本音を言うなら離してやるよ。嘘を言ったらキスするからな」
「なっ……」
「ほら、言って。……頼むから、本音を聞かせろよ」
強引なのに、どうしてそんなに切なそうな表情をするの。……ずるいよ。
キスのことを忘れられなかった理由も、航くんのことが気になって仕方なかった理由も、彼のことを考えると鼓動が速くなってしまう理由も、本当はとっくにわかっている。
でも、航くんには藤岡さんという素敵な女性がいる事実がある限り、私の心にいつの間にか生まれていた気持ちを認めるわけにはいかなかった。
……航くんを好きになっても、無駄だと思っていた。
いつからか私は翼くんと航くんを比べることをやめて、初恋の人ではなく目の前にいる彼のことだけを考えてしまうようになっていたのだ。