再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
気を引き締め、手帳を手に取って立ち上がるのと同時に、航くんが口を開いた。


「来週の金曜日の午後、梶原さんも案件の完成現場に連れていくから覚えておいて」

「完成現場、ですか?」

「あぁ。自分が関わった案件、見てみたいだろ。ブライダルの改装」

「!」


私がアシスタントした案件でブライダルの改装はひとつしかない。

その案件は資料を確認したときに、その素晴らしさに感動したものだ。

一気に気持ちが高まり、私はためらうことなく二つ返事で頷く。


「はい! ぜひ、連れていってください!」


予想もしていなかった状況に興奮しているのか、手が震えているのがわかる。

案件の現場に行くことは初めてだし、何よりもロマンティックな空間であるブライダルの改装の完成をいち早く見ることができるのだ。

嬉しいに決まっている。


「梶原さん。当日は私も一緒だからよろしくね」

「あっ、はい。よろしくお願いします!」


藤岡さんは優しい笑顔で丁寧に挨拶してくれる。

真正面から挨拶したのは初めてだけれど、女の私でも惚れてしまいそうなくらい綺麗な人だ。

私にもこんなふうに女の魅力があればいいのにと何度思ったことか……。


「あら、そのペン……」

「え?」


ふと藤岡さんの目線が私のデスクの上に落ち、私もつられてそちらを見ると、そこにはお気に入りのペンが転がっていた。

何の特徴もないペンなのにどうして興味を引かれたのか気になって聞いてみようかと思ったとき、航くんが「おい、結衣」と彼女の名前を呼んだ。

彼の呼びかけに藤岡さんは笑みをこぼす。


「ふふっ、航平もかわいいところがあるのね」

「うるさい。ほら、これ持ってさっさと戻れ」

「はいはい。じゃあ、確認したらまた連絡するね」

「あぁ」


オフィスでは珍しく、ぶっきらぼうに頷いた航くんは自分のデスクに座った。

そんな彼に対して藤岡さんは再びくすりと笑い、私の方を向く。


「梶原さん、かわいいペンだなって思っただけだから気にしないでね」

「あ、はい……」


今のやりとりに違和感を覚えながらも、挨拶をしてオフィスを出て行く彼女の笑顔に私も笑顔を返した。
 
< 146 / 196 >

この作品をシェア

pagetop