再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
あと数歩というところで、ふと彼のネクタイピンが曲がっていることに気づいた。


「ネクタイピン、曲がってますよ」

「あれ、いつの間に」


航くんの前で立ち止まり、私は彼のネクタイに手を伸ばす。

ネクタイピンをつまみ、曲がらないようにネクタイを挟み込んだ。

「これでよしっ」と彼のネクタイに指先で軽く2度触れ、1歩下がる。


「ありがと」

「いえ。瀬戸さんってたまにちょっと抜けてますよね。いつかもネクタイ曲がってましたし」

「は? 梶原さんほどではないだろ」

「いえいえ。私抜けてないですもん。企画営業のアシスタントとしても、しっかりものでしょ?」

「まぁ、アシスタントとしては認めてやらなくはないけど……、でも、俺の前では違うだろ?」

「えっ、ちょっ……」


航くんの腕が突然私の腰に回り、身体の向きを変えられて壁に背中がぶつかった。

私の後ろと左横には壁、目の前に航くんがいて、完全に囲まれた状態になる。

そして、彼は壁に手をつき、私との身長差を縮めるようにして身体を少しかがませた。

思わずときめいてしまうような状況に私は慌てた。


「な、何するんですか、離れてくださいよ……!」

「嫌。キスさせてくれたら離れてやるよ」

「もうっ、ふざけないでくださいってば!」

「なんで。こうなること、期待してたんだろ?」

「し、してません!」


どうにか離れようと航くんの胸を押すけれど、離れる気配はない。

熱っぽい瞳で私を見下ろす顔の距離は近いし、スーツ姿という休日には感じることのできない男の色気が漂っていて、どうしても心臓が高鳴ってしまう。

100%期待していなかったとは言えないけれど、今はときめいている場合ではない。


「ねぇ、航くん、本当に離れてよ! もし誰かに見られたらどうするの!」

「そう言うなら、声抑えろよ。っていうか、もうあまり人も残ってなかったしドアも閉めてるから大丈夫だろ。俺は誰に見られても全然構わないしな。残業を気遣ってくれてるんなら、キスくらいちょうだい」

「航く、んっ……」


航くんの意地悪な笑みと吐息を間近で感じた瞬間、彼の唇が私の唇に触れた。

触れ合うだけではないキス。そして、ドアを開けられてしまえば誰かに見られてしまうという状況に、身体が一気に熱を帯びる。

彼の熱の気持ちよさにすぐに抵抗できなくなってしまった私は、彼のスーツを掴んだまま彼の熱に翻弄されるだけだった。
 
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