再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
記憶を辿るまでもなく、私の頭の中にはすでに翼くんと“もうひとり”の人物が浮かんでいた。
夢に出てこなかったからすっかり忘れていたけれど、それは、翼くんの……。
「……こ、航(こう)くん、なの!?」
「気づくのが遅い。この歳になっても、のろま紗菜は健在だな。まったく」
「……」
「のろま紗菜」。私が小さい頃、よく“航くん”に言われていた呼ばれ方だ。
そして「鈍感女」だとか「バカ」だとかもよく言われていた。
ということは……。
今日1日ずっと、航くんのことを翼くんと間違えてたってこと!?
あの笑顔も、ドキドキしたことも、全部!? 嘘でしょ!?
――航くん……瀬戸航平(せとこうへい)は翼くんのひとつ下の弟だ。
私よりもふたつ年上の航くんは、穏やかで優しい翼くんとは性格が正反対で、俺様なガキ大将タイプだった。
私は航くんによく意地悪されてからかわれていて、そこに助けに入って守ってくれるのが翼くんだったのだ。
そんな航くんだったのに、なぜか周りからの信頼は厚かった。
うちの両親や保護者たち、先生たち、周りの人たちはみんな、翼くんだけではなく航くんのことも頼っていたから、私はよく不思議に思っていたんだ。
こんなに意地悪な俺様なのにどうして?って。
初恋の人に再会したと思っていたのにまさかその弟だったなんて、運命的な再会の夢が一気に崩れ落ちてしまった。
……いや、でも待ってよ。じゃあ、どうして最初からそう言ってくれないの!
戸惑いや驚き以上に怒りが湧き上がってきて、私は航くんに向かって吠える。
「航くん、酷い! なんで翼くんのふりなんかしてたの!?」
「お前が勝手に勘違いしたんだろうが」
「そっ、それはそうだけど! でも、言ってくれたっていいじゃない!」
「俺のことを翼と間違えたお前にイラついたから。翼を見るような目で俺のことを見たから。言わなかった理由はそれだけだ」
「何それ!?」
「そのままの意味だろ? ほんと、早く気づけよな。わざわざ、“2年こっちで働いた後、3年間海外にいた”っていうヒントも与えてやったのに。計算もできないのかよ」
そんなヒントを出されても気づくわけがないし、よくわからない理由で嘘をつかれるなんて、たまったもんじゃない。
いや、あの航くんならやりかねないけれど、この歳になってまでそんな子どもみたいなことをするなんてどうかしている。
翼くんのふりをしていた航くんに対して一喜一憂して浮かれていた自分に対しても、悔しさがわき上がる。