再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
少し身体を引くと、キスが止まった。
「……ずるいよね、航くんは」
「は?」
私だって航くんを振り回したい。
そう思いながら背伸びをして彼の首に腕を伸ばし、抱きつくようにして彼の唇に触れた。
すぐに離れて目を開けると、航くんが驚いたような表情で私のことを見ていた。
少しは彼のことを振り回せたかな?
そんな手応えを感じたものの、慣れない行動に思わず照れが出てしまった私はごまかすように笑い、口を開く。
「じゃあ、充電は終わりってことで戻りましょう!」
「どっちがずるいんだよ。まったく」
「え、何?」
「なんでもない。それより紗菜。来週は将来のためにもしっかり見ておけよ」
「へ?」
“来週”ってブライダルのことだよね?
航くんのことを見つめていると、以前彼に連れて行かれたブライダルフェアでも同じようなことを言われたことを思い出した。
でもあのときは私をからかうための言葉だったはずだし、付き合い始めてからすぐの頃に一度だけ将来を期待させるような言葉を言われたことはあるけれど、あの場のノリだろうと思うようになっていた。
でも……航くんは本当に私との将来を真剣に考えてくれてるの?
それとも今後の仕事のため? 前みたいにからかわれているだけ?
……いや、むしろ、あのときにはすでに本気だったという可能性は?
仕事の下調べだけではなく、私と恋人になることを願って連れていった……とか……。
どう捉えればいいのかわからないのに、期待だけは膨らんで言葉が出ない。
私を見つめていた航くんの表情がふと緩む。
「じゃあ先に戻るから、そのバカっ面は直してこいよ」
おかしそうに笑った航くんは私の頭をくしゃりと撫で、給湯室のドアを開けて出て行った。
遠くなっていく彼の足音を聞きながら、私は壁に沿うようにしてその場にしゃがみこんだ。
今きっと私の顔は真っ赤で、航くんの言う通りこのままではオフィスに戻ることはできないだろう。
顔を両手で包み込むと、頬の熱さが手に伝わってきた。
こんなにも簡単に私を動揺させる航くんはやっぱりずるい……。
少し怖い気持ちもあるけれど彼の考えていることを知りたくて、彼の頭の中を覗ければいいのにと強く思った。