再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
そして、午後。朝から降っていた雨は会社を出るときにはやんでいた。
でも、どんよりとした重い雲は広がったままだ。
航くんの運転する車で現場に向かう。
てっきり助手席には藤岡さんが座るものだと思っていたのに、助手席には航くんの荷物が置かれ、私と藤岡さんは後部座席におさまっていた。
移動の時間は30分程度らしく、その間、藤岡さんは私の緊張をほぐすようにざっくばらんに話題を投げかけてくれ、私はすぐに彼女と打ち解けることができた。
彼女は人見知りをしない性格でおしゃべりするのが好きなようだ。
高嶺の花に感じていた彼女に対して、さらに親近感がわいた。
最初のうちは航くんも含めて会話をしていたけれど、私だけに話しかけるように藤岡さんの声のボリュームが落ちた。
「ねぇ、梶原さん」
「はい」
「梶原さんだけに伝えたいことがあるんだけど、ちょっと耳貸してもらってもいいかな?」
「なんですか?」
彼女に近づくと、かすかに香水の香りがした。
嫌みのない甘い香りは藤岡さんにぴったりだ。
「この間の梶原さんのデスクにあったペンのことなんだけどね、あれって梶原さんのものよね?」
「あっ、はい。あのペンがどうかしたんですか? どうして藤岡さんがあのペンに興味を持ったのか気になってたんです」
「気にさせちゃってごめんね」
「あっ、いえ」
「いつか梶原さんと話す機会があったら話したいと思ってたの。2ヶ月くらい前に、航平のイタリア出張があったでしょ? あのとき私も一緒に行って仕事してたんだけどね、そのときに航平があのペンを持ってたの」
「え……?」
まさかあのペンが航くんと一緒にイタリアまで行っていたなんて想像もしていなかった。
いつ航くんにペンを貸したのかは結局思い出せなかったけれど、てっきり彼のデスクにでも置き忘れていたのかと思っていたのに……。