再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「航平にしてはかわいすぎるペンを持ってたから不思議に思って聞いたの。それどうしたの、って。そうしたらね、“お守りみたいなものだ”って」
「お守り……?」
「えぇ」
航くんが“お守り”という存在を大切にしていることにも驚くけれど、私の持ち物を“お守り”と言うなんて……。
「そのときはすぐにバッグに入れちゃったからそれ以上詳しいことは聞けなかったんだけど、この前梶原さんのデスクで見たときにピンときちゃった。大切なのね、あなたのことが」
「……えっ!?」
藤岡さんの言葉に驚いて声を出すと、運転席から航くんが「おい、急に叫ぶなよ。手元が狂う」と冷たく言い放ってきた。
これまで何度も言われてきた言葉で反射的に謝ると、藤岡さんは諭すように航くんの名前を呼んだ。
「もう少し優しく言いなさいよ」
「いいんだよ。それよりも、さっきから何こそこそしてるんだよ。気持ち悪い」
「女子トークしてたの。いいでしょ? あっ航平、もしかしてヤキモチ焼いてるの? 私が梶原さんを一人占めしちゃってるから」
「は? バカなこと言うな」
「本当に気を許した相手には素直じゃないんだから。そんなだから初恋の子にも気持ちを伝えられないまま、家の事情で別れなきゃいけなくなったんでしょ?」
「おい、その話は忘れろって言っただろ」
いつもは冷静な航くんが明らかに動揺したのが私でもわかった。
呆然とする私に、藤岡さんが補足してくれる。
「前にね、何人かで飲みに行ったときに初恋の人のことを暴露させたの。航平はなかなか言ってくれなかったけどね」
「そう、なんですね……」
航くんの初恋の相手は誰なのだろうと考えるけれど、彼の告白や家の事情で離ればなれになったという話を聞けば、その人物はひとりしか思い浮かばない。
……きっと、私だ。
「ほら、もう着くから用意しろよ。無駄な話はやめろ」
「はいはい。本当に航平ってば照れ屋なんだから」
「うるさい」
また新たに知る航くんの真実に鼓動を速めていると、車が駐車場に止まった。
そのとき、すぐ横から手のひらを合わせるパンっという音が響いた。
「さ、お仕事! 幸せの始まりの日を迎えられるよう、しっかり努めましょう!」
この30分間の緩さとは違い、藤岡さんの表情が引き締まった。
彼女の切り替えの様子がカッコよくて、航くんに初恋の話を確認したい気持ちを抑え、私も見習わなければと気を引き締めた。