再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
私はリラックスしてチャペルを見渡す。
明るさもちょうどよく目に優しくて、照明のデザインと空間も見事にマッチしている。
穏やかな時間の流れを感じる一方、わくわくする気持ちが大きいからか、あっという間に時間は流れていく。
そして、いよいよ最終確認が始まった。
以前参加したことがある模擬挙式と同様の流れで、段取りが進んでいく。
次は新婦の入場だ。
開いた扉から姿を現した藤岡さんはとても綺麗で、感動して涙が出そうになった。
拍手とあたたかな雰囲気に包み込まれる彼女自身も素敵だけれど、足元の照明がドレス全体をより存在感のあるものに見せる。
先日藤岡さんが言っていたこだわりだろう。
彼女ははにかむような笑顔を浮かべながらも、私と視線が合ったときには一段と照れ臭そうな笑みを見せ、前方へと進んでいった。
そして、新郎役の男性と藤岡さんが神父の前に進もうとしたときだった。
「ユイ!!」
突然、後方から男性の声が響き、その場にいた全員が一斉に振り向く。
そこには、走ってきたのか、息を切らした外国人の男性がいた。
それはもう息をのむほどのイケメンで、なぜか新郎の格好をしている。
予想外のできごとに会場内にどよめきが広がった瞬間、藤岡さんが口を開いた。
「レオ、どうして……?」
藤岡さんに名前を呼ばれた“レオさん”はすらりと長い足を動かし、呆然とした様子の藤岡さんの元へあっという間にたどり着いた。
そして彼女の手を取り、ふたりは見つめ合う。
「キミを奪いにきたんだ! ユイはボクのものだ! 一生、誰にも渡さない! 愛してる……」
ふたりの潤んだ瞳が照明を受けてキラリと光る。
それはダイアモンドにも負けないくらいの透明感のある輝きだ。
「……レオ、私も愛してるわ」
藤岡さんがそう答えると、自然とチャペル内に拍手が広がった。
完全に雰囲気にのみ込まれそうになったとき、ふと「結衣には海外事業部に恋人がいる」という航くんの言葉を思い出し、ある予想が浮かんだ。
もしかして、レオさんって藤岡さんの本当の彼氏なんじゃ……!
そのリアルさに気づくと同時に私は完全に仕事のことは忘れ、ロマンチックな状況に大きな感動を覚えた。
挙式の最中に愛する新婦を奪いにくるなんて、ドラマチックすぎる……!
藤岡さんは微笑みを浮かべながら乱れていたレオさんの髪を整え、「愛を誓いましょう」と神父に向かう。
いつの間にか元々の新郎はその場を離れていて、まるで最初から藤岡さんとレオさんの挙式が行われていたかのように式は進んでいった。
退場するときにふたりが見せた笑顔は、本物の新郎新婦のようだった。