再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
30分ほどで最後の調整を終え、藤岡さんとレオさんは着替えに行った。
しばらくしてふたりが戻ると今日の作業報告や今後の話があり、その場は解散となった。
外に出たときには午後7時を回っていて、空にはまだ雲がかかっているせいか辺りも暗くなっている。
このまま会社に戻るか直帰するものだと思っていると、藤岡さんが食事をしていこうと提案してきた。
そうして私と航くん、そして藤岡さんとレオさんは、会場のすぐそばにあったレトロな雰囲気の喫茶店を訪れた。
それぞれパスタセットやハンバーグディナーセットなどを頼み、食事を進めながら会話をする。
「ねぇねぇ、ボクの演出どうだった? 到着が遅れちゃったときのためにって考えてたの!」
レオさんが興奮気味に問いかけてくる。
イタリア人の彼は小さい頃から日本に興味を持っていて、就職活動をしているときに偶然うちの会社の海外営業部のことを知り、働くことにしたという。
そこで海外出張に来ていた藤岡さんと運命的な出会いをし、レオさんの熱烈なアプローチの末、恋人同士になったらしい。
日本語が堪能なレオさんが話す言葉は、藤岡さんの影響を受けているのかすごくかわいくて、思わず頬が緩んでしまう。
「呆れたに決まってるだろ。本当にバカなことばっかりしやがる」
「コウヘイには聞いてないよ。サナミに聞いてるの」
「すっごく素敵でした……!」
「おい、やめろよ。レオを調子に乗らせるな」
航くんが話しかけてくるけれど、レオさんの演出の話のほうが聞きたくて、航くんの声は私の耳を素通りするだけだ。
「愛する新婦を奪いに来るなんてすごくドラマチックで感動しちゃいました。あっ、でも元々の新郎の気持ちを考えると複雑ですけど……」
「問題ないよ。あの結婚は政略結婚で、あの男は結婚しても愛人を作ろうと企ててた悪い男なんだよ」
「わ、そうだったんですね……!」
こういう話が大好物の私はついついレオさんとの会話にのみ込まれてしまう。
そんな私たちを見ながら、藤岡さんは微笑ましそうな表情、そして航くんは大きくため息をついて完全に呆れた表情をしていた。
「サナミもすごくかわいいから、悪い男には気をつけてね」
「あっ、はい。ありがとうございます」
さらりと「かわいい」と言われたことに、さすがイタリアの男性だなと思う。
航くんはほとんど言ってくれないし、レオさんの言葉がお世辞だとわかっていても嬉しいものだ。