再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
「チャペル、本当にすごく素敵だったね。本番じゃないのにたくさんの幸せと笑顔で溢れてて、今日のことはずっと忘れられないだろうなぁ」

「気に入った?」

「うん! 資料を見せてもらったときも素敵だと思ったけど、本物はもっと素晴らしくて感動しちゃった。航くんが現場で仕事する姿を見るのも初めてだったし、なんだか嬉しかったな。カッコよかったよ」

「へぇ。惚れ直したか?」

「……今ので察してくださーい」


クスクスと笑いながら言うと、航くんも「素直に認めろよ」と笑ってくれる。


「今日であれだけ素敵だったんだから、本番はもっともっと素敵な空間になるよね。本当のゲストが入って、ウェディングドレスのデザインでも雰囲気は変わるだろうし、すごく楽しいだろうな」

「そうだな」

「あっ、藤岡さんに聞くの忘れちゃったけど、バージンロードを歩くとまた違った景色が見えるのかな? やっぱり幸せの絶頂だろうし、すごくキラキラして見えるんだろうね。どっちも見てみたいな」

「ふーん」


思わず想像を膨らませて熱く語ってしまうと、航くんから興味なさそうな相づちが返ってきた。

その瞬間、私の言葉は結婚を急かしているように聞こえてしまったかもしれないと、私は我に返った。

この前は航くんから「将来のために」なんて言葉が出てきたけれど、これまでのことを考えると彼がどこまで本気かはまだはっきりわからないし、そもそも私たちの間に「結婚」という言葉は一度も出てきたことはない。

関係が進まないことを考えると、彼は私との未来をリアルには考えていないかもしれないとも思ってしまう。

この年になれば結婚を意識してしまうのは当然だけれど、今は不安をどう打ち明けるかでいっぱいだし、結婚の話に踏み込むのはまだ早すぎる。

話題を変えてしまったほうがいいと思ったとき、航くんが言葉を繋いだ。


「そんなにドレス着て、チャペルを歩いてみたかった?」

「えっと……まぁ、ね。でも、憧れっていうか……ほら、私は藤岡さんみたいに大人っぽくないからドレスも似合わないと思うし、今は着なくてよかったのかも」

「ふーん。でも、結衣は結衣、紗菜は紗菜なんだから、それぞれに合うものがあるだけって話だろ。紗菜に似合うものもある」


航くんから飛び出したのは予想もしていない言葉だった。

嬉しい気持ちよりも疑問のほうが大きくて、彼に問いかける。


「……でも、航くんも言ってたでしょ? 私にはまだ早いって。その通りだと私も思うから」

「確かに早いとは言ったけど、そういう意味で言ってない」


……じゃあ、どういう意味で言ったの?

そう聞きたい気持ちと聞くのが怖い気持ちとがぶつかりあって、私は何も言うことができない。
 
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