再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
航くんは運転しているからこちらを向くことはないだろうと、そっと膝の上で拳を握りしめて俯いたとき、彼が私の名前を呼んだ。
「紗菜」
「……うん?」
「どうしたんだよ。急に黙り込んで」
不安を悟られないようにできるだけ明るく返事をしたつもりだけど、彼にはお見通しのようだ。
「別に黙り込んでないよ? やっぱり私って子どもっぽいから、似合うドレスなんてなさそうだなって考えてただけ。ドレスを探すよりも私が大人になるほうが絶対手っ取り早いよね!」
なるべく航くんと言い合いにならないように軽いテンションで伝えると、前を向いたままの航くんが怪訝な表情を浮かべた。
「紗菜、どうしたんだよ。なんか妙に自分を変な下げ方してないか? 紗菜らしくもない」
「事実を言ってるだけだよ。自分を下げてるとかじゃなくて、航くんと付き合い始めてからずっと、夢ばかり見てないでもっと大人にならなきゃって感じてたの。ちゃんと前を向かなきゃって。航くんだって藤岡さんみたいに現実をしっかり見据えてる大人の女性のほうが、魅力を感じるだろうし楽でいいでしょ? 私が航くんだったら絶対にそう思うし。だから航くんに似合う大人の女になれるように、私頑張るね!」
今できる笑顔を航くんに向けた後、前に向き直る。
しっかりした大人の女性であれば、きっと何も言わずに行動するだろう。
そして自然な流れの中でその魅力に気づいてもらえるのだ。
でも、私にはそんなにカッコよくできない。
子どもっぽく口に出して、彼にすがって必死になるのが私の精いっぱいだ。
もっともっと頑張らなきゃという決意を込めて、膝の上で拳を握りしめる。
胸が苦しくて視線を落としたとき、赤信号で車が止まった。
その次の瞬間、航くんの手が私の拳を包み込んできて、ハッと顔を上げるのと同時に私の目から涙が一粒落ちる。
思わぬ涙に戸惑うと、航くんは呆れたように息をついた。
「紗菜。うちに来て。ゆっくり話そう」
「ち、違うの、ごめ……っ」
「謝ることじゃないだろ。大丈夫だから泣くな。ほら、大丈夫だって」
ぶっきらぼうな言い方をする半面、航くんの手は私の目尻に溜まった涙を優しく拭ってくれる。
情緒不安定で泣いてしまうなんて本当に子どもだ。
でも大人にならなきゃと思えば思うほどそのギャップに追いつかなくて、今まで溜まっていた想いが溢れ出すように涙が止まらなかった。