再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
03
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時計の秒針の音が微かに響く。
何度も訪れている航くんの部屋は今日も変わらず、まるで自分の部屋のような心地よさを感じさせてくれる。
少しずつ増えていく私のものが違和感なく彼の部屋に留まっていて、それは彼が私を受け止めてくれている証拠に思えてしまう。
促されるままソファーに座っていると、航くんがアイスティーをグラスに入れてきてくれた。
このグラスもふたりで買ったお気に入りだ。
泣いてしまったせいで喉が渇いていたから、お礼を言って一口飲んだ。
「落ち着いたか?」
「……うん。ごめんね」
「そこは“ありがとう”って言うのが紗菜の持論だろ」
「……そう、だね。ありがとう」
航くんは私の様子がおかしいことを見ぬふりすることなく、向き合ってくれようとしている。
今ならずっとのみこんできた不安を伝えられそうな気がするけれど、なかなか言葉にならない。
沈黙に包まれる中、航くんは私の頭を撫でてくれる。
「紗菜」
「……うん」
「俺は、紗菜は今のままでいいと思ってるし、子どもっぽいと思ったことも、大人になってほしいと思ったこともない。早いって言ったのは……そういう話をしてないからだし、変に気にしなくていい。勘違いさせるような言い方をしたのは悪かった」
以前であれば「なーんだ、それならそうとちゃんと言ってよ!」と笑えただろう。
でも、今は元々の不安があるせいで素直に笑うことはできない。
そんな私の心を読むように、航くんは口を開く。
「それでもまだ引っ掛かることがあるなら、紗菜の気持ちが落ち着いてから話してくれたらいい。綺麗ごとはいらないから、ちゃんと吐き出せよ」
「……うん」
こういうところが航くんらしくて、また涙が出そうになる。
たとえうまく話せなくても、航くんはちゃんと受け止めてくれる。航くんのことを信じていたらいい。
そうは思うものの、涙腺は一度緩んでしまえばどんなに堪えても簡単にまた涙が出てきてしまって、なかなか口を開くことができない。
何度か深呼吸を繰り返し、「大丈夫、大丈夫」と心の中で唱える。
すると、少しずつ気持ちが落ち着いていくような気がした。