再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「……笑わないで聞いてほしいんだけど、いいか?」
「うん、笑ったりしないよ」
私の言葉に航くんは覚悟を決めるように息をついた。
「俺は紗菜を、ちゃんと抱ける自信がない」
「……?」
よく意味がわからなくて、私は航くんの胸の中で彼の続きの言葉を待つ。
「最後まではしたことがないんだ。一度も」
「……え?」
予想すらしていなかった発言に、その意味をうまくのみこめない。
「この年になって、情けないだろ? 今まで付き合った女がいなかったわけじゃないし、ちゃんと気持ちはあったはずなのにいざというときにできなくて、それが原因で別れてきた。働くようになってからは自分には打ち込める仕事があったし、何よりも楽しくて生き甲斐にもなってたから、俺の人生には恋愛は必要ないと思うようになってたんだ。そんなとき、紗菜に再会した」
「……」
「紗菜は俺が好きだったときの紗菜のままで、すぐにまた好きになった。手に入れたくて、紗菜の気持ちを俺に向かせようと必死だった。幸運にも紗菜は俺のことを好きになってくれて幸せだと思う反面、今までみたいになるかもしれないっていう怖さが顔を出した。でも、俺は紗菜を抱きしめて、触れて、キスをするだけでも幸せだと思えるし、紗菜も気持ちよさそうにしてくれるから、このまま何もしなくても過ごしていけるんじゃないかと勝手なことを思ってたんだ。……だけど結局不安にさせて……最低だよな」
まさか航くんが……って、正直思った。
お得意の冗談で私をからかうつもりなの、って一瞬思った。
でもさっきの彼の表情を思えば、そんな考えはすぐに消える。
彼の告白は、真実だ。
ずっとひとりで悩んできたのだろうか。
私を想ってくれているからこその悩みだろうし、相談しづらい内容だということもわかるけれど、言ってくれたら一緒に悩んだのに……。
それは同時に、私は航くんに信用されていないのかもしれないという想いを生んだ。