再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
航くんの顔が見たくて軽く彼の胸を押すと、一瞬、私を抱きしめる彼の腕に力が入った後、緩んだ。
彼の顔が見える程度にそっと離れるけれど、航くんは目線を下げていて私と視線を合わせてくれない。
一人で苦しんできた彼の気持ちを考えれば目を合わせてほしいと無理には言えないけれど、それでも伝えたいことがある。
「……私、そんなに信用なかった? 抱き合えないからって、私が航くんから離れていくと思ったの? 私は航くんが好きなんだよ? これから先もずっと、航くんと一緒にいたいって思ってる。そんな理由で離れるわけないよ」
「……今まで付き合ったやつも最初のうちは同じように言ってたよ。でも、自然とお互いに気を遣うようになるし、そのうち俺と付き合ってても満たされなくなって刺激がほしいと思うようになる。もし結婚を意識するようになっても、子どもを作れないことに不満を持つようになって苦しい想いをする」
そんなことはないと、私は小さく首を振る。
「紗菜だって昔言ってただろ。大好きな人と結婚して、子どもを産んで、楽しい家族を作りたいって。俺のせいで紗菜の夢を潰すようなことしたくないし、紗菜にはちゃんと夢を叶えて幸せになってほしい。そのためにも俺が離れれば済む話だって本当はわかってる。……本当は俺の自分勝手な感情だけで、紗菜に近づくべきじゃなかったんだ。そうすれば紗菜を振り回すこともなかった。でも、紗菜の気持ちが俺に向く可能性が1%でもあるなら、たとえ短い時間だとしても、紗菜と恋人として過ごしてみたかった」
航くんの目線が上がり、私とぶつかる。
「子どもの頃の夢を捨ててまで、俺から離れないって言えるか?」
その瞳には不安を秘めながらも強い覚悟を持っているように見えた。
正直困惑する気持ちはある。
もし誰かに相談すれば、考え直せと言われるかもしれない。
でも、今の私の心にはたったひとつの答えしか浮かばなかった。