再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
まだその声を聞き慣れてはいないものの、その持ち主が誰なのかはすぐにわかった。
振り向き、挨拶をする。
「おはようございます……瀬戸さん」
穏やかな笑みに、一瞬、翼くんがいるのかと勘違いしそうになる。
でも、これは航くんなのだと言い聞かせていると、涼木さんが航くんに向かって一歩近づいた。
「瀬戸くん、おはよう」
「あぁ、涼木さん、おはよう」
「今ちょうど、梶原さんとあなたのことを話そうとしてたの。元気にしてた?」
「まぁな。涼木さんも元気そうで何よりだよ」
ふたりの会話を聞きながら、涼木さんがふたつ上だということを思い出した。
同期入社で仲がいいのだろう。
一歩下がって目の前で親しそうに会話する美男美女を見ていると、涼木さんがなんの躊躇いもなく航くんの首もとに向かって手を伸ばした。
「曲がってるわよ」
「ん。あぁ、悪い」
涼木さんが慣れた手つきで、航くんのネクタイを綺麗に締める。
まるで夫婦のようなふたりのやりとりに、心臓が音をたてた。
この親密な雰囲気……もしかしてふたりって……。
以前涼木さんは「遠距離恋愛している彼氏がいる」と言っていた記憶がある。
その相手は航くんだったりする?
ただの同期だったらわざわざネクタイを結び直してあげるようなことはしないし、他人行儀な挨拶を交わしていたのは、社内では付き合っていることを秘密にしているからかもしれない。
妄想が広がってなんだか不思議な気持ちが生まれたとき、航くんの視線が私を向いた。
そこに浮かぶのは、私に言わせれば“営業スマイル”だ。
「梶原さん、行こうか」
「あっ、はい」
頷きながらも、どうしてここで航くんが営業スマイルを見せる必要があるのか、不思議に思う。
涼木さんの前ではいい顔をしているのかなと予想したけれど、彼女という近い存在にずっといい顔をし続けるのは難しいだろう。
それなら、ここが社員の目に触れる場所だからという可能性のほうが高そうだ。
そんなことを考えながら、私は涼木さんに挨拶をして、エレベーターに向かい始めた航くんの後を追った。