再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「あっ、私、ネクタイの結び方、知らない」
「は? 一度も結んだことないのか?」
「うん。ネクタイを結ぶ機会なんてないもん。社会人になってからは彼氏もいないし、お父さんもネクタイをするような仕事じゃないから、そんな機会ないよ」
「ふーん。彼氏いないのか」
「うん」
「へぇ。親父さん、元気か?」
「うん、元気すぎて仕方ないくらいだよ。この前も釣りに誘われて一緒に行ってきたんだけど、私しか釣れなかったから落ち込んでたよ。ねぇ、これ、ぎゅーってすればいいの?」
細い方のネクタイを引くと締まりそうだったので引いてみると、慌てたように航くんの手が私の手の動きを制した。
「バカ、待てって。首締める気かよ」
「そのくらい許されるでしょ? この状況、私、最強だよね」
「アホか」
「航くんがどうしてもって言うからでしょ。くふふっ」
「こら、引っ張るな」
つい少し前までは余裕の表情を見せていた航くんが焦りを見せたのがおもしろくて、思わず笑いが出た。
そのとき、エレベーターの速度が落ちて止まり、扉が開いた。
「ほら、紗菜。先に出ろ」
「あっ、うん」
航くんは開くボタンを押して私がエレベーターから降りるのを待ってくれる。
海外で3年過ごしていたからか、この航くんでもレディファーストという行動は知っているようだ。