再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
エレベーターを降りてオフィスに向かおうとすると、後ろから航くんが私の手を掴み、誰もいない給湯室へと私を引っぱりこんだ。
壁と航くんに挟まれ、見下ろされる。
「ちょっと、何」
「ほら、こうするんだよ」
「えっ、まだ続くの?」
「当たり前だろ」
掴まれていた手にネクタイを持たされ、私の手を導くように、ネクタイの結び方をレクチャーし始めた。
仕方なく言う通りにネクタイをクロスさせたり巻きつけたりするけれど、なかなか難しい。
もたつくと航くんの手が器用に私の手をリードしてくれ、なんとかネクタイを結び終えた。
手の感触でわかるのか、航くんがネクタイの締まり具合を確認する。
「下手くそだな」
「初めてなんだから、うまくできるわけないでしょ!? 文句言うくらいなら、自分でやってよ!」
「まぁいい。今日は外出の予定は入ってないし、これで過ごしてやるよ。ネクタイの結び方、ちゃんと練習しておけよ」
「いや待って、結び直しなよ! それで1日過ごすのはさすがにどうかと」
「問題ない。ありがと」
まさか感謝の言葉を言われるとは思わなくて、驚いたように心臓が跳ねた。
呆然としている私に「じゃあ、先に行くから。そのバカっ面を直してこいよ」と笑顔を残し、航くんは私の頭を軽く叩いてオフィスの方へ颯爽と歩いていってしまった。
「もうっ。バカっ面とか酷い!」
誰もいない空間に向かってひとりこぼすけれど、確かに驚いたせいで表情が崩れていそうだ。
私は頬を軽く叩いて表情を引き締める。
航くんと再会してから丸1日しか経っていないのに、ずいぶん長い時間を過ごしているような気がする。
航くんといると振り回されっぱなしだし、何かとできごとが濃すぎるのだ。
これからも一緒に仕事をしていく限りは彼に振り回されそうだと思えば、思わずため息が出た。