再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
一昨日ということは、そのネクタイは確実に私が結んだものだ。
だから、結び直してって言ったのに……。
ネクタイのことは航くんの自業自得ということで置いておいて、「手伝おうか」と言うなんて、航くんの行動とは思えない。
別の人の話をしているのではないかと思ったとき、ハッと思い出した。
昔から航くんは、何故か私の周りの人にはすこぶる評判が良かった。
そして、決まって言われる言葉は……。
「普通だなんて、そんなことないじゃない! 素敵な人じゃないの~」
「そ、そうみたい、だね……」
耳にタコができるくらい聞いてきたその言葉に、私は苦笑いを返すしかなかった。
散々羨ましがられた後、ようやく航くんに関する会話が終わった。
原野さんと田上さんはまだまだ話が尽きないようで、楽しそうに話しながら去っていった。
彼女たちが見えなくなったのを確認した後、私は大きくため息をつき嘆く。
「やだ……またこんな生活が始まるなんて……! 昨日涼木さんに会ったときも思ったけど、航くんってば私以外の前では猫かぶってるところも全然変わってない! 私は平穏に生活したいのに!」
「ま、そういう運命なんじゃない? いいことあるかもしれないよ。刺激があるほうが楽しそうだし、今の紗菜美って前よりも生き生きして見えるし、いいじゃないの」
「いいことがあるなんて思えないよ~! 生き生きなんて全くしてないし!」
今の私の状況を聞いてどうして私が生き生きしていると思えるのか、全く理解できない。
なんとなくだけど、こういう状況すら航くんは楽しんでいる気がする。
そんなのは悔しいし、これから先どうにか平穏な生活を送ることができるように考えなければ……。
私はただただ自分の運命を嘆きながら料理を掻き込むように平らげ、重たい気持ちでランチを終えた。