再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
そして数分後。
私は目の前にそびえ立つ教会を呆然と見上げていた。
きっと、さっき車から見えた教会だろう。
「航くん、いつの間にクリスチャンになったの? よくわからないけど、十字架持って“神よ~!”とか言ってるの?」
「なんでそうなるんだよ。ほら、ボーッとしてないで、こっち」
「ひゃっ!? ちょっと、手、離して!」
航くんの手が私の手を包み込んできて、私は慌てた。
子どもの頃は不本意ながらも航くんと手を繋ぐことはよくあったけれど、恋人同士でもないのに大人になってまで繋ぐ理由はない。
振り払おうと力を入れるけれど、離れる気配は全くなかった。
教会の奥にある、これまた高級ホテルを思わせるオシャレな建物のエントランスの入り口にたどり着いたとき、ようやく航くんの歩みが止まった。
航くんの真剣な表情が私に降り注ぐ。
「紗菜」
「え?」
「俺たち、結婚するから」
「は?」
「あぁ。言葉が足りなかったな。今から俺たちは結婚を決めた恋人同士だから」
「いや、言葉の意味は何も変わってないから!」
「いいから黙って俺についてこい。幸せにしてやる」
「だから意味わかんないってば! なんなの~っ!」
わめく私の声なんて届いていないかのように、航くんはどことなくご機嫌な様子で私の手を引き歩き出す。
彼の意味不明な発言に対して私が騒げたのは、ほんの一瞬のことだった。
建物のロビーに連れ込まれてしまえばその雰囲気に騒ぐことはできなくなってしまい、私は借りてきた猫のように口を閉ざしてしまった。