再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「……紗菜(さな)」
「翼くん……?」
先に彼の口から出てきた自分の名前にかぶせるようにして、私も咄嗟に“彼”の名前を呼び返す。
彼……つまり、つい今朝方、夢に出てきた初恋の人……翼くんの名前を。
私の呼びかけに対して彼も目を見開いて反応を見せたことが、私にさらなる確信を持たせた。
「やっぱり翼くんだよね!? どうしてここにいるの?」
「……いや、ここで働いてるから、だけど」
「私もここで働いてるんだよ!」
「……そうだったのか。驚いたな」
まるで夢みたいな初恋の人との再会に、私は言葉を失ってしまう。
私は自他ともに認めるくらい夢見がちな性格で、昔から奇跡を想像するのは大好きだ。
でも、まさか知らない間に初恋の人と同じ会社で働いていたという奇跡が現実に起こるなんて、想像もしていなかった。
もしかして、今朝翼くんが夢に出てきたのは再会する予兆だったの……?
10年以上会っていなかったけれど、昔から大人っぽい雰囲気を持っていた翼くんの面影はしっかり残っている。
年を重ねた分、体格がしっかりして大人っぽさと男らしさがぐんと増した姿。
そして、少年っぽさがすっかり抜けた、低くて甘さを含ませた声。
それらは昔以上に私を魅了する。
……ううん。きっと、彼は多くの女の心を捕らえて離さないはずだ。
ロマンチック過ぎる再会と彼の大人の雰囲気に心臓が高鳴ったとき、翼くんは厚みのある唇に綺麗な弧を描いた。
「紗菜ちゃん、ごめんな? 会えたのはすごく嬉しいんだけど、今急いでるんだ。また今度ゆっくり話そう」
「あっ、うん! 忙しいのにごめんね」
忙しいところを邪魔してはいけないと慌てて頷くと、翼くんは優しい笑みを私に向けてくれた。
笑みのないときはキリッとした雰囲気があるのに、笑顔になるとやわらかい雰囲気に包まれるところは昔と変わっていない。
そして、優しく「紗菜ちゃん」と呼んでくれることも。
「じゃあ、またな。紗菜ちゃん」
「うん。お仕事、頑張ってね!」
「ありがとう。お互いにな」
翼くんの大きな手が私の頭に軽く乗り、翼くんはエレベーターホールの方へ去っていく。
彼に触れられた感覚を噛みしめながら、私は彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
……スーツ姿でこのフロアにいるということは、もしかして企画営業部にいるのかな……。
というか、今まで社内で会わなかったのは、もしかして海外から戻ってきたのが彼だから……?
頭に浮かんだ予感と奇跡に気持ちが昂っていくのを感じながら、私は浮き足立ったまま、今日から所属するオフィスへと足を向け始めた。