再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
普段とはどこか違う航くんに対して、むず痒い感覚がしたときだった。


「あれ? 紗菜美?」

「え?」

「やっぱり。久しぶり」

「……竜、也……?」


よく知っている声に振り向くと、そこには大学時代に2年間付き合っていた元カレの竜也(たつや)がいた。

別れてから3年以上が経ち、あの頃よりも落ち着いた雰囲気になっている。

私が大好きだった彼の笑顔と声は、私に苦しい想いを蘇らせた。


「ねぇ、この子、誰? たっちゃんのお友だち?」


竜也の横に寄り添うようにいた、女の子が顔を覗かせる。


「話したことあるだろ。夢見る元カノ」

「あっ、あのかわいい夢子ちゃん? そうなんだね。こんにちは」

「……こんにちは」


ふたりの人懐っこい笑顔につられて、私も笑顔を浮かべて挨拶をする。

捕らえ方によっては悪気があるような言葉にも思えるけれど、ふたりの雰囲気からは少しも悪気を感じることはない。

むしろ、昔付き合っていた人のことを話せるほど、お互いを信頼し合っているのだと感じた。

竜也がここにいるってことは……もしかして、この子と結婚するのかな……?


「そちら、彼氏、だよな?」

「……あの、えっと……」


竜也の視線がふと航くんに移り問いかけられたけれど、うまく答えることができない。

すると、竜也はそれを肯定だと捉えたらしく、満足げに頷いた。


「そっか、良かった。オレとは違って夢物語に付き合ってくれる優しい相手見つけたんだな。紗菜美のことちょっと心配だったし、オレも安心したよ」

「……う、うん」


竜也は気遣ってくれるような言葉を言ってくれるけれど、さっきまでの夢心地がすっかりなくなって苦しさだけが私を襲う。

航くんの気持ちも考えずに頷いてしまったことに対しても、私には気にする余裕がなかった。
 
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