再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
笑顔で溢れるべき場所だし笑顔でいなければと、私は苦しさを表に出さないように身体の後ろで拳を握り、言葉を絞り出す。


「竜也、結婚するんだね。おめでとう」

「うん。ありがと。そういう紗菜美もだろ? おめでと。お互いに幸せになろうな」


頷くことも言葉を出すこともできないまま、私は曖昧に唇の端を上げた。

そんな作り笑いをする私とは正反対に、竜也には私と付き合っていた頃よりもずっと幸せそうな笑顔が浮かんでいる。

竜也はちゃんと幸せを手に入れたんだ。

そう思うと、竜也と別れてから立ち止まったままの自分が空しく感じてしまい、どうしても頷くことができなかった。

……なんか、これキツイかも……。

竜也に対して未練はないはずなのにそんな想いが私の中に生まれ、俯きそうになってしまう。

そのとき、私の拳をあたたかい熱が包み込んだ。


「!」


ハッとそのぬくもりの持ち主である航くんを見上げると、笑みはないのにどこか優しさを感じる表情がそこにあった。

その視線が私から竜也に向けられ、彼は口を開く。


「ありがとうございます。紗菜の想いは一生かけて俺が現実にしていきますから、安心してください」

「!?」


普段の航くんからは想像できない言葉に耳を疑う。


「あなた方もお幸せに」

「ありがとうございます。うん、頼もしい言葉が聞けてよかった」


ふたりの大人の会話を聞きながら、航くんがどうしてここまで付き合ってくれるのかわからなかった。

その後も、航くんは曖昧に相づちを打つことしかできない私の代わりに竜也と会話をしてくれて、私はそれに甘えるだけだった。


会話が終わり竜也と彼女が去った後、航くんは立ち尽くしていた私の手を引いて無言のまま歩き始めた。

もう竜也はいないのだから手を繋ぐ理由なんてどこにもない。

でも今の私にはその手を振り払おうなんていう気持ちは一切なく、むしろ彼のぬくもりに安心できて、導かれるままに歩く。

めんどくさいことに付き合わせちゃったよね……。

人をかばうようなあんな面倒な状況、きっと航くんは好きじゃないはずなのに……。

謝っておこうと航くんを見上げたとき、そこにはいつもと変わらない様子の航くんがいた。


「……あの」

「腹減ったな。飯行こう」

「……あ、うん」


航くんは特に文句を言うこともなく、教会の十字架の向こうから漏れる太陽光を見上げながら「いい天気だな」と言い、車に向かった。
 
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