再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
私も航くんも言葉を発することはないまま、夕日のオレンジと波の音に包まれて時間が過ぎていく。
「紗菜」
「うん」
「その場しのぎの言葉じゃない。本気だからな。俺と一緒に一歩進めばいい」
「え、……?」
航くんが何を言っているのかわからなくて夕日から航くんに目線を移したとき、彼のあたたかい手が私の頬に触れた。
そして影を落としながら、航くんの整った顔がスローモーションのように近づいてくる。
その状況を理解する前に、航くんの唇が私に触れた。
……え……? なに……?
想像すらしたことのなかった航くんの唇は、あたたかくて柔らかい。
航くんは私から離れるとふと頬を緩め、いたずらっ子のような笑みを溢した。
「ふ、バカっ面。不細工でかわいいけど、お前の好きなロマンチックはどこにもないな」
彼は触れている手で私の頬を両側からつまみ、唇のやわらかさを確かめるようにして触れ、離れていく。
いつもなら彼の手を振り払っていただろう。
でも今はそれ以上に頭を占めることがあって、身体が固まったように動かなかった。
……待ってよ。今、キス、したよね? どうして……。
まるで夢の中の出来事のようで、私はただ夕日に目線を戻した航くんのことを呆然と見つめることしかできない。
そうしている間に、夕日は海の向こうへ沈み始めた。