再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 

しばらくして航くんが「帰るか」と言い、私たちは車に戻り始める。

辺りは暗くなっていて、航くんはここに来るときと同じように私の手を引き、私の速度に合わせて歩いてくれた。

この優しさも今の私には疑問の材料でしかなく、私の心臓の鼓動はただ速まるばかりだった。

そして、帰路の中では私たちの間に会話はほとんどなく、その隙間を埋めるように車内には洋楽が流れている。

私の頭の中はさっきのキスのことでいっぱいだった。

……どうしてキスなんてしたの? ただの冗談、だよね? でもそれならどうして何も言ってこないの……?

考えれば考えるほど意識してしまうし、どうやって彼に声をかけたらいいのかもわからなくて、それを彼に気づかれないように私は外の景色を眺め続けた。

たくさんの景色が過ぎ去り、私のマンションに到着する頃には空は深い藍色になっていて、満月と星が浮かんでいた。


私の住むマンションの前に車が止まる。

ハザードの規則的なリズムの音が包み込む中、ハンドブレーキをかける音が妙に響いた。


「紗菜」


狭い車内に低く響いた航くんの声に、私の心臓が大きく音をたてる。

彼の方を見ると、いつもと同じように笑みのないクールな表情を浮かべている。


「今日付き合ってくれてありがとな。楽しかった」

「……ううん。私も、楽しかったよ」

「そう。ならよかった」


安心したように小さく息をついた航くんの言葉に、鼓動が速度を増していく。

どこかいつもと雰囲気の違う航くんのことが気になって仕方ない。

……何事もなかったように別れるべきなのかな?

それとも、どうしてキスしたのか聞いてみる?

きっと航くんの悪い冗談のはずだし、先伸ばしするよりは今思い切って聞いてしまったほうがすっきりするよね……?

……うん、それがいい。

私は決意を固めるように息を吸い、口を開く。


「……あの、航くん」

「ん?」


いざ彼の名前を呼んでみたものの、言葉が続かない。


「何?」

「えっと……」


私の言葉を待つ航くんの視線があまりにもまっすぐで、怯みそうになる。

でも勇気を出さなきゃと、私はゆっくり口を開く。
 
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